News&Analysis
【第446回】価格暴騰で今年の“土用の丑の日”が食べ収めに?「うなぎXデー」到来に備える庶民や業者の心構え 
2013年07月19日

「最近、国産のうなぎは高い」。7月20日の土用の丑の日を前に、日本の食卓からはこんな溜息が漏れる。スーパーなどで見かける「うなぎの蒲焼き」は、これまでの半分の量で値段が1.5倍になっていることも珍しくない。日本の風物詩だった「うなぎ」は、庶民から遠い存在になりつつある。家庭の主婦が落胆する一方、「うなぎ離れ」を防ぐため、これだけの価格高騰下で「まさかの値下げ」に踏み切る業者も。近い将来、うなぎが日本の食卓から消え去る日はやって来るのか。「うなぎXデー」の行方と、我々が持つべき心構えを検証する。(取材・文/岡徳之、協力/プレスラボ)

うなぎの漁獲量が減り価格が高騰
土用の丑の日を前に落胆する食卓

土用の丑の日が目前に迫るなか、夏の風物詩である「うなぎ」がかつてなく高騰している。庶民の食卓から、うなぎが消え去る日は来るのだろうか。

 「最近、国産のうなぎは高い。スーパーで蒲焼き1尾2500円とかで売ってたりします。土用の丑の日ぐらい蒲焼きは食べたいけれど、だからといって、中国産を食べるのは、何となく寂しいし……」(50代・専業主婦)

 一家の台所に立つ主婦たちから、こんな落胆の声が聞こえてくる。日本の夏の風物詩「うなぎ」の値段が高騰しており、庶民の手が届きづらい食材になりつつあるのだ。

 今年は7月20日が「土用の丑の日」にあたる。古くから庶民の間では、夏バテ予防のためこの日にうなぎを食べるのが習わしになっていた。しかしこの主婦は、伝統にあやかりたいと思いながらも、昨今高騰する価格に気が引けている様子だ。

 うなぎ価格が高騰している背景には、河川環境の悪化、海流の変化などを背景に、国産うなぎの漁獲量が年々減り続けていることがある。日本養鰻漁業協同組合連合会の調べでは、2003年以降、国内天然漁獲量が激減。2003年の年間589トンと比較し、2012年は169トンまで落ち込んだ。

7月2日に水産庁が行った発表によれば、養殖に使うニホンウナギ稚魚の取引平均価格は、業界調べで1キロ当たり248万円。一昨年(87円)比で価格が約2.5倍も急騰した昨年(215万円)に、さらに33万円も上乗せされた。この価格は、今から10年前に遡る平成15年度(16万円)のなんと15.5倍になる。

 「これだけニュースなどで高騰の様子を報じられると、もう買う気がなくなってしまいます。高い金額を出すほど好きではないし、かといって安いものを買ってまずい思いをするなら、同じ値段で他のものを買った方がいい」(60代・専業主婦)

 今ではすっかり高級品となったうなぎに、土用の丑の日くらいはお目にかかりたいところだが、今年はとうとううなぎを諦める人も出ているようだ。よもや日本の食卓からうなぎが消える「うなぎXデー」が訪れるのだろうか。

由緒あるうなぎ専門店も青息吐息
国が乗り出す安定供給策も効果薄?

 庶民の食卓が寂しいだけなら、まだいいのかもしれない。うなぎ料理を出す専門店にとって、価格の高騰は生業に関わる問題だ。仕方なく値上げに踏み切るものの、安い外国産を扱う外食チェーンの攻勢も加わり、客離れが進んで閉店に追い込まれるところも出ている。

 川端康成や北大路魯山人ら、文化人に愛されてきた鎌倉の「浅羽屋」は、取引価格の上昇に伴う客足の減少などを理由に、今年1月末日をもって閉店。5月末には、東京・神田小川町にある1909年創業のうなぎ専門店「寿々喜」が閉店した。

 こうした状況を憂慮し、昨年から国も動き始めた。水産庁は、うなぎを安定的に供給できるよう、うなぎ養殖業者向けの支援やうなぎ資源の管理・保護などを柱とする緊急対策を行っている。

 うなぎの養殖を行っている事業者に対しては、保証枠46億円の財源内で、稚魚の購入資金などの運転資金の借り入れを、無保証人・担保限定による融資・保証により支援。また、養鰻用飼料の安定的な供給や養殖環境の保全に対応した低コストの配合飼料の普及を図るために、事業者が行う実用化試験の取り組みを支援している。

 さらに、養鰻事業者が行うウナギの放流と河川生息環境の改善、中国、韓国、台湾など、盛んにうなぎの養殖を行っている東アジアの関係国との継続的な協議、情報・意見交換、資源管理の協力などを行っている。

 それでも、「稚魚の量は依然として少なく、それに伴い生産量も少なくなってしまう」と、日本養鰻漁業協同組合連合会参事の若林稔氏は、現状に危機感を募らせる。

 若林氏によると、これほどまでにうなぎが高騰している理由は、ニホンウナギ稚魚の池入れ量の減少だという。今年は確定値で12.6トンと、前年の79%に止まった。その内訳は、国内の採捕が5.2トン(前年の58%)、輸入が7.4トン(前年の107%)となっている。稚魚の仕入れ量が昨年より21%も減少したことで、今年もうなぎのさらなる高騰が懸念されている。

輸入うなぎにビジネスチャンス
牛丼店が「うな丼」を続々投入

 価格が高騰する一方のニホンウナギを尻目に、一般庶民でもうなぎの味を楽しめるようにと、企業は様々な取り組みを行っている。

 1つは、外国産品種の活用。多くはアメリカ産やマダガスカル産などで、スーパーや外食チェーンを中心に出回っている。牛丼大手の吉野家は、中国大陸の南部にある池で、白子(シラス)の頃から一貫して育てたうなぎを使用した「鰻丼」(並盛680円)を提供している。

 同じく牛丼のすき家も、中国産の「うな丼」(並盛780円)を提供している。一般的なサラリーマンも、外回りついでに季節の風物詩を楽しむことができる。

 ただし、国内の外食産業が廉価な輸入うなぎに頼っていることは、うなぎの国産業者にとってみれば、稚魚の取引平均価格の高騰に加えて市場競争も激化するわけだから、まさに二重苦と言えよう。

 スーパー各店では、高騰する国産うなぎを少しでも安い値段で売るための試行錯誤が行われている。

 総合スーパーのダイエーは、昨年に引き続き、売れ筋の鹿児島県・宮崎県産のうなぎ蒲焼が、「土用の丑の日」の店頭販売よりも5~10%安くなる予約販売を実施している。

 また、一部商品では値引きにも踏み切っている。たとえば、「鹿児島県産・宮崎県産うなぎ蒲かば焼(大)2尾」(3000円)は、昨年は1尾1880円で販売していたものを2尾セットで販売し、1尾あたりの単価を20%引き下げた。「同うなぎ白醤油焼(大)1尾」(1800円)にいたっては、27%値引いた。

計画的値下げやうなぎの代用食品も
「うなぎ離れ」を防ぐ小売店の試み

 どのようにしてうなぎの価格を抑えているのか。価格戦略について、IR広報部広報課の山口愛一郎課長は次のように話す。

 「相場が比較的安定していた、昨年の秋口から年末にかけて、この土用の丑の日に合わせた計画的な仕入れを行いました。また、蒲焼きの加工を加工業者の工場の閑散期に行うことで、中間コストを削減。商品あたりの単価を引き下げて売れ数を前年の1.2倍にすることで、トータルの利益を上げる計画です。予約販売の状況から言うと前年の1.2倍ペースなので、計画通りですね」

 同じく小売りでは、西友が「食の幸 うなぎ蒲焼」(鹿児島県産・宮崎県産原料)の大サイズを1470円という低価格で販売。イオンは「鹿児島県産グリーンアイ うなぎ蒲焼き」「鹿児島県産 五匠鰻の蒲焼き」を、いずれも1780円で提供しつつ、一部商品では予約品に一回り大きいうなぎを使うという。

 この他にも、イトーヨーカードーなどが「肝吸い」などのサイドメニューを無料提供し、おトク感を醸成しようとしている。価格の高騰によって「うなぎ離れ」が起こらないよう、スーパー側でも必死の取り組みが行われている。

 さらには、こんなアイデア商品も。丸大商品は、国産鶏肉を自社の特許製法でうなぎの蒲焼のような形に仕立て、直火でふっくら焼きあげた『鶏肉の蒲焼き』(100グラム+タレ20グラム)を今月8日からメーカー希望小売価格380円で販売開始。うなぎの代替商品として売り出している。

 丸大商品マーケティング部の福世茂美部長は、この商品の意外な開発の裏側についてこう語る。

 「開発は4年前からスタートしていました。土用の丑の日は、もともとスーパーでは鮮魚コーナーの一人勝ち状態。うなぎは食べ物の中でも特に単価の高い商品なので、精肉および加工肉部門でも、指をくわえて見ているわけにもいかず、早急な対策、便乗が命題でした」

 うなぎの価格がじわじわと上がり続けていた頃から手を打ち始め、昨今の価格高騰で発破がかかったという。

 「加工技術的には当時も可能ではありましたが、実商品として販売できるまでのレベルには辿り着いていませんでした。しかし、ここ数年のうなぎの高騰を受けて、開発部門が早急に研究を重ねた結果、ようやく4年越しの商品化に繋がり、発売することとなりました」

 ちなみに、開発で最も苦労したのは、うなぎ(のような)自然な蒲焼形状を再現しつつ、どのように食感を柔らかくするかだったそう。同社には、うなぎが苦手な子どもやヘルシーさを好む女性などにも訴求できるという目論みもあった。土用の丑の日を前に、顧客からは、「うなぎは嫌いだが、これは食べてみたい」などのクチコミがすでに広がり、反響を実感している様子だ。

平賀源内以来の日本の風物詩が消える?
「うなぎXデー」はやって来るのか

 このように、庶民に今年もうなぎを楽しんでもらおうと、企業は様々な努力を行っている。果たして、この価格高騰はいつまで続くのだろうか。

 前出の若林氏が、「今後については、こればかりは見通しが立たない」と語る通り、先行きは不透明だ。前出の50代の専業主婦も心配そうにこう語る。

 「このままだと、いつか国産うなぎが絶滅危惧種に指定されて、ますます食べられなくなるかもしれない。せっかくの季節ものだから、今年も買おうと思うし、来年以降も買いたいけれど……」

 「土用の丑の日にうなぎを食べる」という習慣の由来には諸説あるが、讃岐国出身の平賀源内が発案したという説が最もよく知られている。源内以降受け継がれてきた日本の風物詩、もっと言えば「日本の心」のようなものがこのまま失われてしまうのは、何とも寂しい限りである。「うなぎXデー」は本当にやって来るのだろうか。

世論調査

質問1 今年の「土用の丑の日」はうなぎを食べる?



News&Analysisの最新記事
【第527回】整備が急がれる一方で騒音トラブル急増の皮肉保育...(2014年10月31日)
【第526回】財政難はともかく、そろそろ腹を割って語らないか...(2014年10月24日)
【第525回】もはや薄れた性能優位美しき「MRJ」成功の条件...(2014年10月22日)
【第524回】ノーベル賞を獲得した青色発光ダイオード産業とし...(2014年10月10日)
【第523回】朝日新聞は許されるべきか、許されるべきでないか...(2014年10月10日)